「土手の花見」の物語   その1

加古川グリーンシティ防災会オリジナル解釈バージョン


むかし、むかし、あるところに
毎年、毎年
繰り返される水害に悩まされた地域がありました。

その地域では、水害対策の為にと、川に土手を造り、水害に備える事にしたのです。

ところが一度冬を越えると
しっかり造ったはずの土手が翌年の出水期である梅雨を向かえると、
またもや土手が決壊してしまい、またまた水害に見舞われてしまうのでした。

なぜ、しっかり造ったはずの土手が決壊するのだろうか?
地域のお役所様では、知恵のある人を集めて調べてみることにしたのです。

もう一度、土手はしっかり造りなおしました。
すると、その年の出水期には何の問題なく過ごすことができました。
ところが、翌年の出水期にまた決壊してしまったのです。

それはなぜか?
しっかり固めたはずの土手に小さな素穴が開き、その小さな穴が原因となり、その小さな穴を水が通り抜けることで大きな穴となり、土手を決壊させてしまうと言うことが判ったのです。

なぜ、しっかり造ったはずの土手に素穴が開いてしまうのか?
前年には無かったはずの素穴!

またもや、地域のお役所様では、知恵のある人を集めて調べ考えてみることにしたのです。

 「造った年は大丈夫」
 「ところが翌年になると穴が開く」
 「いつの間に穴が開くのだろうか?」

答えは、土手の土の中にある水分が原因であると判ったのでした。

土手を造った年には、多くの水量にも耐える土手。
ところが多い水量に耐えている間に土手が保水をするのでした。
その保水した土手の土は、その年の冬に凍てつき膨張することが判りました。

それが春になり、春のポカポカとした穏やかさの中で凍てついた氷は溶け出し、
土手の中の水分は、外へ外へとしみ出すのでした。
あとに残ったのは、凍てついている間にできてしまった小さな空間。
それが小さな素穴の原因だったのです。
それでは対策は簡単だと!
 「翌春にもう一度固めればいいのだ」

ところが、出来上がった後の土手は、大きな圧力を掛けないと土を締め固めることができないと言うことが判ったのでした。

ならば、人をたくさん集めて、踏み固めてもらおうと考えたのです。
そこで地域の人たちにこんな『おふれ』が出されました。

- 記 -
この町に住むもの全員は、○月○日に土手に集まりなさい
水害対策の為に全員で土手を踏み固める
                          お役所より

と、お役所から呼びかけたのです。

さて、○月○日になりました。
待てど暮らせど町の人たちは集まりません。

「なぜ、集まらないのだろうか?」

それはなぜか!

 「自分ひとりくらい、うちの家族くらいは行かなくても大丈夫だろう」
と、町中の人が思っていたと言うのでした。

これは防災で言うところの「集団的手抜き事件」発生です。

そこで、知恵のある人が言い出しました。
 「真っ正面から、災害対策を語るからダメなんだよ!」

みんなは口々に問いました。
 「じゃあ、どうすれば良いのかね?」

知恵のある人がこう言いました。
 「春先に花の咲く木を土手の周辺に植えてください」
 「サクラなんてぇのも良いですね」

またまた、みんなは問いました。
 「春先に花の咲く木を植えてどうするのかね?」

知恵のある人はこう答えました。
 「花が咲いたら、みんなで花見大会をしよう」
 「唄って、飲んで、踊って、みんなで楽しむのですよ」

みんなは口々に言いました。
 「そんなことで人は集まるのかねぇ?」
 「災害対策だと言っても、みんな集まらないんだぞ」
 「そんなバカげたことはけしからん!」

知恵のある人はこう言いました。
 「とりあえず、やってみましょうよ」
 「やってみてから、お叱りを受けますから」
 「あっ、それと、お役所様にお願いがあります」
 「お祭になりますから、歌ったり、踊ったりで上手だった人たちに”美味しいお酒”を振る舞ってあげてください」
 「それから、子どもたちやお酒の飲めない人たちには”美味しいお菓子”を振る舞ってください」

お役所様は言いました。
 「もしも、ダメだったら誰が責任をとるのかね」

知恵のある人はこう言いました。
 「人が集まらなかったときには、私が責任をとりましょう」

お役所様は言いました。
 「どう責任をとるつもりなのかね」

知恵のある人はこう言いました。
 「私を煮るなり焼くなりしてください」

お役所様は言いました。
 「そこまで言うなら、用意をしてやろう」

翌年の春、
昨年植えた桜に小さな花が咲きました。

またお役所様から次のような『おふれ』が張り出されました。

- 記 -
○月○日に土手で花見大会を行う
下手や上手にかかわらず
歌って踊れるものには褒美
お酒またはお菓子を振る舞うこととする
家族から何人出ても良し
                          お役所より

○月○日になりました。

その日は朝から、町中の人が土手に溢れかえるほど集まり、
花見大会の見物客も、ゴザやむしろを広げて
ワイワイガヤガヤ
歌えや踊れの大騒ぎ
一日中、町中の人たちが土手を踏みしめてくれました。

ところが驚いたことに
翌日も、その翌日も
花が終わりになるまで、多くの人が土手で花見を楽しんだのでした。

その結果!
その年からは、出水期の梅雨や台風時期になっても、
土手は決壊せず、安心して暮らせるようになりました。

お役所様は、提案をした知恵ある人に言いました。
 「褒美をとらせるぞ」

知恵ある人は言いました。
 「褒美はいりません。その代わりに毎年お花見大会をやってください」
 「町の人の笑顔が私には何よりの褒美になります」

お役所様は言いました。
 「笑顔が褒美とな?」

知恵ある人はこう言いました。
 「町の人の笑顔が、私の大切な家族を守ってくれているのですから」
 「これより良い褒美はありません!」

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